ここは文具と雑貨の織りなす小宇宙。心に響く何かが見つかるお店でありたい。

山田麻美さん

三鷹産業プラザの1階に「山田文具店」はあります。お店の棚に置かれている文具や雑貨は店主の山田麻美さんのセレクトで、大人の審美眼や遊び心にかなうどこか懐かしくてユニークな品々。中央通りのデイリーズで長く仕入れを担当していたという山田さんがここにお店を構えるに至ったきっかけや、文房具や雑貨への愛、三鷹の街に寄せる想いなどについて伺いました。

山田麻美さん(ふたご座)
大学卒業後、家具・ホームセンターの島忠に就職。その後、三鷹にあるカフェ併設の雑貨と家具の店デイリーズで仕入れを担当。退職し子育てに専念した時期を経て、2008年夏に山田文具店をオープン。2児の母。

三鷹産業プラザに山田文具店ができるまで

-山田さんはずっと中央線沿線にお住まいだそうですね。

中央線がすごく好きなんです。実家が武蔵境で、24歳で三鷹に越してきて今に至ります。三鷹に越してきたのはデイリーズで働くようになったのがきっかけでした。

もともと私は雑貨や家具が好きで、就職活動の時は家具を扱えるところを中心に回り、埼玉に本社がある「島忠」に就職しました。島忠はホームセンターも兼ねた郊外型の店舗を展開しており、小平店に勤務しました。その後、家具だけでなく雑貨も扱い、カフェが併設されている三鷹のデイリーズで働くようになりました。

デイリーズは店舗も小規模ですし、当時はスタッフも少なかったので、家具以外、洋食器、和食器、バス・キッチン雑貨に至るまで仕入れはすべて任されていました。雑貨の仕入れの仕事は楽しかったです。結婚して子供ができて、子供が8ヶ月までの7年間はデイリーズで働き、その後は退社して三鷹で普通に主婦をしていました。

お店は三鷹産業プラザ1階の南側。ペン先の絵が描かれたこの看板が目印。

お店は三鷹産業プラザ1階の南側。ペン先の絵が描かれたこの看板が目印。

-山田文具店を始められたきっかけは?

ちょうど子供が2歳くらいの時に、デイリーズの店長が「三鷹産業プラザの1階でカフェをやるんだけど、半分くらいスペースが空くので、お店をやりたいならどう?」と声をかけてくれたのです。それがちょうど夫が会社を辞めるタイミングと重なりました。夫が「1年間は自分が主夫をやる」と言うので「それなら、お店やってみようかな」と。雑貨の中でも文房具が一番好きだったため、文具店にしました。

お店の立ち上げはたいへんです。振り返ってみると、夫が主夫をしてくれなかったら、最初とても回らなかったと思います。私としては、「なんとか1年のうちに態勢を整えて、バイトさんも雇えるようにしなきゃ」と必死でした。

-そういえば、以前は隣にカフェ(横森珈琲)がありました。

経営は全く別で家賃は折半でしたが、カフェでは私も知っているスタッフが働いていたので、とても安心感がありました。ポイントカードがデイリーズと共通で、そのお客さんにもお越しいただけたので、ゼロからのスタートではなかったです。取引メーカーさんも、私がデイリーズで仕入れをやっていたため、山田文具店のスタート時からよくしてくださって、とてもありがたかったです。

取材時には店内で「こけし祭り」開催中。中に手紙が入る「通信こけし」との出会いがきっかけで集め始めたのだという。

取材時には店内で「こけし祭り」開催中。中に手紙が入る「通信こけし」との出会いがきっかけで集め始めたのだという。

仕事と子育て両方の経験から店舗のコンセプトを決めた

-「文具店」という店名ですが、普通の文房具店とはかなり違いますね。商品の置かれている棚自体も並べ方もユニークで、センスが感じられます。Webショップの方も、「綴じる・整理する」「伝えるもの」とか、「図書館グッズ」「駄菓子屋グッズ」など、商品のカテゴリー分けが面白いです。

棚など店の什器にはちょっとこだわっています。アンティークだったり、高いものも安いものも、いろいろミックスしています。うちは量販店ではないので、商品の個性を引き出すディスプレイをし、お客様に手にとっていただけるよう付加価値をつけるのが大事だと考えています。

商品が常時1500アイテムくらいあるので、Webページのカテゴリーは、なるだけお客様が目的のものを見つけやすいよう区分けしています。以前は事務所を借りてそこでネットショップの出荷をしていましたが、同居していたカフェが近所に引っ越してお店が広がったので、現在はレジの後ろで出荷作業をしています。お店の在庫がなくなったらネットの在庫から出して、臨機応変にやっています。

幸い、デイリーズで仕入れを任されていたおかげで、店舗を回していくにはこのくらい仕入れをして、このくらい経費がかかるというのはだいたいわかっていましたし、現在の品揃えも当時の経験を生かしたものになっています。

-と、言いますと?

まず、私ひとりで最新の商品を網羅するのはすごく難しかったんです。休みの日に全ての展示会に行けるわけではありませんから。それに苦労して情報を追いかけても、新商品は仕入れた時は爆発的に売れるけれど、その後が続かないことも多かったです。

一方で、柳宗理のキッチン用品や白山陶器の食器、iittaraのガラス器など、定番のブランド品は決して派手な売れ方はしませんが、コンスタントに売れる商品だったんですね。そういったアイテムを一つでも多く仕入れることがお店の売上の基盤になるのではないかと考えて、長くお付き合いできるメーカーさんのブランドを探しました。そのおかげで、「お値引きあり」「安さを印象づける値付け」といった家具量販店の接客コンセプトから、「まずは商品を気に入ってもらおう」という発想に転換できました。

文房具も定番のロングセラー商品が売上のベースになります。お客様は近所の方々がメインなので、気軽にお店を覗いて楽しみながら日用品を買っていただくには、いわゆる「尖った」商品よりロングセラー商品を中心にしていこうと考えました。文房具は安上がりに気分を“アゲる”ことができるグッズですが、特に三鷹の方々は値段が安ければよいというのではなく、商品の背景をきちんと理解して購入してくださる方が多いように思います。

一風変わった定番商品とディスプレイ。それぞれの商品が背負う物語が感じられる。

一風変わった定番商品とディスプレイ。それぞれの商品が背負う物語が感じられる。

-山田さんはそんな三鷹の住人のお一人でもありますね。

私も三鷹で子育てして、「100円の消しゴム一つでもいいから、お店に行って自分の気に入ったもの、可愛いと思うものが買えたら気分転換になるのに」と感じていました。でも、吉祥寺に行くのは面倒でした。特に私の子供が小さかった頃には駅や歩道なども整備されていなくて、ベビーカーで吉祥寺に行くこと自体大変でしたし、子連れではゆっくり見て回れません。それがずっと自分の中でモヤモヤしていました。

ですから、誰もが気軽に立ち寄って楽しい買い物ができる近所のお店として、山田文具店が三鷹で営業している意義があるのかなと思っています。

-今、山田さんの週間スケジュールはどんな感じですか?

一昨年にお店が広くなってから来店者数が増え、人件費をかけるゆとりができました。スタッフ6人体制でシフトを組んでいます。私には小学生の子供たちがいるので土日は店には出られませんから、週に3日、平日の開店前から午後まで店に出ています。平日の残り2日のうち1日は自宅で経理に当て、もう1日を自分の時間にしています。

それまでは自分で極力店に出ていたので、時間的にも気持ちにも余裕がありませんでした。やっとペースを少し落として、友達とご飯を食べに行ったりもできるようになりました。週に丸々1日休みがあると他のお店を見に行ったりできますし、展示会も時間が合えば行くこともできます。オープンした時のように日々の売上に一喜一憂しなくなりましたし、「トータルに見て良ければいいんじゃない」と肩の力を抜いてから、逆に売り上げが良くなったかもしれません(笑)

-ゆとりは大事ですよね。経営者として日々の仕事だけでなく、先々のためにインプットしたり企画を練ったりするための時間も必要でしょうし。

仕事は楽しいのですが、逆に自分がやりたくて始めたお店なので家族に弱音を吐けなかったのが、気持ち的にはきつかったかもしれないです。私がいつも楽しんでいるふうでないと、家族に申し訳ないと感じてしまって。でも好きでやっていることでも、辛い時は辛いです。今はもう少し距離を取って、仕事全体を見ることができているかもしれません。

店内で接客をする山田さん。客層は主に30代以上で、遠方から訪れる方も多いという。

店内で接客をする山田さん。客層は主に30代以上で、遠方から訪れる方も多いという。

個人経営の小さなお店だからこそできること

-お店をやっていく上で一番大切にしていることは何ですか。

よいお店を作ることに尽きます。お客様はたぶん「何か楽しいものはないかな」とうちのお店に来てくれていると思うので、その“何か”に応えられて、満足して帰っていただけるお店作りを常にしていきたいです。そのためにも自分が欲しいと思ったものは極力仕入れたい。経営者としては良くないのかもしれませんが、極端な話、自分の給料を削ってでも仕入れたいと思います。この規模にしてはすごく楽しいお店なんじゃないかなと自負しています(笑)。

文房具好きの方はもちろん、お買い物の付き添いでいらっしゃる方にも極力楽しんでもらいたいのです。小さいお子様のために紙風船や駄菓子も置いていますし、お父さんが一緒に来店したら、何か共感するものが見つかるお店でありたいです。家族で来て、お父さんだけ外でタバコを吸って買い物が終わるのを待っているのは淋しいじゃないですか。男の人が一人でも入りやすいお店造りも念頭に置いています。最近は男性一人でいらっしゃるお客様も増えていますね。

レジ裏はネットショップと兼用のストックヤード。接客の合間には品出しや出荷作業も。

レジ裏はネットショップと兼用のストックヤード。接客の合間には品出しや出荷作業も。

-仕入れのお話もそうですが、扱われている商品に対する強い愛情を感じます。

文房具以外のものも、「いいなあ!」と思ったものは仕入れて「なんとなくテイストが山田文具店」というくくりでやっています。お店の雰囲気に合わせるようにディスプレイして、違和感なく溶け込むよう工夫しています。

最近はレジでも「インスタ見てきました」と言ってくださるお客様がいらっしゃいます。私も嬉しいですし、スタッフも小さいお店ならではの楽しさを感じているのではないでしょうか。家賃や仕入れなど商売の小さなサイクルはExcelに入力して、商売の楽しいところも辛いところもみんなで情報共有できるようにしています。

最初に勤めた島忠では、私が売った商品が全体の中でどういう位置付けなのかまるでわかりませんでした。それがデイリーズで少しずつ分かって、今は自分が全部を把握する立場にいます。島忠では朝礼があったり電話の取り方の講習を受けたり、社会人の常識を身につけられるありがたさがありましたし、デイリーズで仕入れを任されたのもありがたかったです。いろいろな規模のお店を経験したことがすべて、自分の中で繋がってプラスになっています。

-山田さんは住人でありお店を持つ立場として、三鷹の街をどのようにお感じになっていますか。

三鷹は適度な人口密度で、とても住みやすい街だと思います。ただ、以前は三鷹だけで1日楽しめるという街ではなかったですね。最近は商店街に小さな珈琲店ができたり、個人経営の小さなお店がだいぶ増えてきています。場所を選べば家賃もそんなに高くないと思うし、お店をやりたい人たちが挑戦しやすいかもしれません。

個性的な小さいお店がもっと増えれば、わざわざ三鷹駅で降りてでも、あちこち足を運んでみようと思えるでしょう。自分なりのプランを立てて三鷹を一巡りして、充実した時間を過ごせる。そんな街になるともっと楽しいのではないでしょうか。


この記事を書いた人
萩谷 美也子 (いて座)サイエンスライター

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