多様な人たちが集い、思わぬ展開が生まれる。だから地域活動は面白い。

一般社団法人てとて 代表理事 浜 絵里子さん

「暮らしの保健室」「くまちゃんハウス」「コミュニティ・コーヒーマスター」。一つくらいは耳にしたり、知人が関わっているかも。いずれも気軽に人が集まる三鷹の地域コミュニティです。発起人の一人で、いつも笑顔で飛び回っている浜絵里子さんに、地域活動に寄せる思いや、実際の活動についてお聞きしました。

浜 絵里子さん(かに座)
三鷹市で生まれ育つ。長岡造形大学で工業デザインを専攻。卒業後は銀座の老舗民藝店「たくみ」に勤務。出産後に医療事務で再就職し「三鷹あゆみクリニック」の立ち上げから関わる。その後三鷹で地域活動に従事。2015年に一般社団法人「てとて」を設立。

「気軽に立ち寄れる場所」が地域にほしい

-浜さんは三鷹で「くまちゃんハウス」や「コミュニティ・コーヒーマスター」などさまざまな地域活動に精力的に関わられています。そもそもは工業デザインを勉強されていたということですが。

そうなんです。短大では生活芸術科で建築とアートをやっていました。先生の「もうちょっと勉強したら」という薦めで美大を受験することにしたのですが、アートでは食べていけないのでデザイン系に進学しました。当時の仲間たちは皆、スポーツシューズや陶器、自動車などのデザイナーになりました。
私は柳宗悦の民藝運動とか手仕事に興味があって、ずっと通っていた銀座の民藝店「たくみ」に就職しました。柳宗悦さんが始めたお店です。

-最初は都心にお勤めだったんですね。

「たくみ」での仕事は大好きだったのですが、子どもができて土日や休日の勤務が厳しくなったので退職しました。子どもが5ヶ月になった頃にハローワークで在宅医療の診療補助・医療事務の求人を見つけたのです。
最初は杉並区のこじんまりしたクリニックで、ドライバー兼医療補助・カルテの打ち込みをしていました。そのうち三鷹出身のドクターが地元で新規に在宅医療クリニックを立ち上げるというので、同僚たちと一緒にその立ち上げから関わることになったのです。
私は図面が引けるからクリニックの図面を引いて、みんなで相談しながらパンフレットを作って。学校で学んだことを生かせたし、楽しかったです。

-その間に、何か地域での活動を意識されるきっかけがあったのでしょうか。

地域に住んでいても、なかなか人様の事情までは見えてこないものです。でも在宅医療は、人が暮らしているところに入っていく仕事です。
高齢の方だけでなくいろいろなケースがありますが、両親とも子どもとも縁が切れて生涯孤独な患者さんたちが多くいらっしゃいます。私もクリニックで働いている時に、地域とも繋がらないで一人で亡くなる人たちを何度も見ました。「もし地域にお友達がいたら、この人がこんな悪い状態になる前に助けられたんじゃないか」と、悔しいようなもどかしい思いをしました。
「孤独な人たちが誰かと話したくなった時に、気軽に行けるところが地域の中にあったらいいな」というので始めたのが「暮らしの保健室」だったんです。

三鷹版「暮らしの保健室」はスペースあいで月1開催。

三鷹版「暮らしの保健室」はスペースあいで月1開催。

-それはどのような活動なのですか?

「暮らしの保健室」は、もともと20年近く訪問看護に携わってきた看護師・秋山正子さんが新宿区で始められた活動で、今はいろいろな地域に広がっています。新宿区の戸山団地は高齢化が進んで、商店街もシャッター商店街化しており、その空き店舗の一室を借りて行われています。誰もが予約なしで気軽に立ち寄り、ちょっとした健康や生活上の不安を無料で相談できるスペースです。
まず、そこを見学に行かせていただきました。地域の高齢者の方々が顔を見せに来たり話をしたり、横になりながらもそこに来る人達の話を聞いている。そばに誰かがいるのを感じながら寝ているのです。私もそういうところを作りたいと思いました。

-三鷹でもやりたいと。

そうです。地域の孤独な方々がなんとなく集まれる場所がほしいと思い、「みたかスペースあい」で「暮らしの保健室みたか」を始めました。実際に来てくださるのはやはり一人暮らしの方が多くて、「ここに来ると誰かがいるし、おしゃべりをして不安をみんなで分かち合う時間が持てるからいいわ」とおっしゃってくれます。
今は他の仕事や活動で忙しくなってしまいましたが、一緒に始めた仲間が引き続きそこでやってくれています。

一軒家を活用した「くまちゃんハウス」のあかり。

一軒家を活用した「くまちゃんハウス」のあかり。

この日のメニューが貼り出された障子。繕いの切り紙が可愛い。

この日のメニューが貼り出された障子。繕いの切り紙が可愛い。

昭和20年代築の一軒家を託される

-現在やられている「くまちゃんハウス」はどういう経緯で始められたのでしょう。

2017年の3月にスタートしたのですが、そこまでがちょっと長いんです。
「ナースさくまの家」はご存知ですか?

-はい、ベテラン看護師の佐久間さんが一軒家でされている医療対応型シェアハウスですよね。

佐久間さんは私の祖父が家で在宅医療を受けていた時に、訪問看護師として携わってくれた人です。その時はちょっと顔をあわせる程度でしたが、私が在宅医療の世界に入ってから「ナースさくまの家」に訪問したりして親しくなりました。
2016年の10月くらいに「ナースさくまの家」の隣のおばあちゃんが亡くなったのです。佐久間さんがお世話をしていたので、「おばあちゃんのお家を佐久間さんに使ってもらえないか」と、ご家族から佐久間さんが隣の一軒家を託されました。12月くらいにその家の使い方を考える会が開かれたのですが、その時は全然話がまとまらないまま、解散になりました。
建物自体も昭和20年台に建てられたそうで、すごく可愛いんですよ!

-その時代の住宅は私も好きです。

私はピカピカの建物が苦手で、ああいう古い味わいのある建物が好きなんです。「もったいないなあ」とずっと思っていて、「ここすごく可愛いらしいし、何かに使いたいね」と佐久間さんと話していたんです。
春に再度知り合いを誘って「くまちゃんハウスで何をやろうか?」というアイディア出しのミーティングをしました。

「一年間お疲れ様」の忘年会スタート。利き酒コーナーもあります。

「一年間お疲れ様」の忘年会スタート。利き酒コーナーもあります。

-ミーティングにはどういう方々が集まったんですか?

まず、うちの母に声をかけました。母は保育士なんです。次に母のご近所に住んでいて、普段から仲良くしているアートセラピストの野田さんを誘いました。それから、この地域を担当している三鷹市の生活支援コーディネーターのお二人に入ってもらい、佐久間さんとブレーンストーミングをしました。
野田さんは子ども向けのアートセラピー教室を「ちびくまアート」という名前でやっています。私はご飯を作ったり食べたりするのが好きだし、みんなで料理を作って食べる「みんなのお勝手」を企画しました。

-食べることは大事です。しかも「みんなで」というのがポイントですね。

在宅医療に関わっていた時に、一人暮らしのお年寄りがテレビを相手にご飯を食べているのを見ていました。それに私自身、子育ての時に夫の帰りが遅かったりすると、幼い子供と二人でせわしなくご飯を食べていたのを思い出して、そういうママ達とお年寄りが集まって、一緒に食事できる場があったらいいなと思ったのです。
みんなで作って食べると距離が縮まります。「これはどういう味付けにしたらいいかな」とか相談しながら作るので、とても楽しいです。

この日のテーマは秋田料理。きりたんぽ鍋準備中。

この日のテーマは秋田料理。きりたんぽ鍋準備中。

秋田出身者が味見をしてOKを出したところ。

秋田出身者が味見をしてOKを出したところ。

-「くまちゃんハウス」の掲示板には、他にもいろいろなイベントがあります。

今は最初のメンバーに加えて、いろいろな方々が関わってくれるようになり、多種多様な催しが行われています。
私の祖母はお裁縫が得意で、ずっと婦人服の店でプロの縫い子さんとしてやっていたので、彼女を活かしたいなと「くまの糸」という催しも作りました。祖母のようにお裁縫が好きだったり得意だったりするおばあちゃん達に集まってもらい、オーダーを受けて縫ってもらうんです。
例えばエプロンが欲しいとか、子供服とか、あるいはお医者さんから手術着のオーダーを受けたり。いろいろな依頼が来ます。おばあちゃん達も、誰かが喜んでくれているのがわかるので楽しいし。

-オーダーはお仕事として受けているのでしょうか。

そうそう、ちゃんとしたお仕事です。ちょっとしたお小遣い稼ぎが出来ます。ただ、おばあちゃん達のセンスで作るとちょっとずれていたりするので、そこはママ達の目線でオーダーしてもらいます。雑誌を見せて「こういうのが欲しいんです」と頼むと、技術も確かだからチャチャチャと自分で型紙を起こして作れちゃう。縫い目も綺麗だし。

-羨ましいです。

ママ達にも「お裁縫を教えてもらいたい」という人がいます。春先にはおばあちゃん達がママ達に教える催しもやってみたいと思っています。入園・入学前にママ達もまたいろいろ作らなければならないから。あれは苦手な人には地獄ですよね。私も全部おばあちゃんにやってもらいました(笑)。

-そういう教室があるといいですよね。自分でやりたい人も、いつでも困った時に相談できるし。「ここがうまく行かないんですよ〜」とか。

いろいろな年代の人たちが混じっているから 楽しいんです。「みんなのお勝手」にしても、私は祖母も母も近くにいますけれども、改めてご飯の作り方とかわざわざ聞く機会がないし、聞いても「ほら、ちゃちゃっと、こうやるのよ!」とかね。

-どうしても身内には教え方が雑になりがちです(笑)。

それに比べて、「みんなのお勝手」に来ているおばあちゃんは、ていねいにお出汁の取り方から教えてくれて。それがとても楽しくて(笑)。

みんなと囲む食卓には笑顔があふれる。

みんなと囲む食卓には笑顔があふれる。

人が集まるほどに企画も多彩に

-他にはどんなことをやっていますか?

最近「デリシャスくま」という「みんなのお勝手」の夜バージョンが始まりました。お夕飯をみんなで食べようと言う企画です。
これは私たち事務局の企画ではなくて、大学生の男の子達が主催です。最初ボランティアをやりたいといってきた男の子に「何かここでやってごらんよ」と言ったら、彼がお友達に声をかけて集めました。将来教師になりたい子とか、地域でいろいろやってみたい子達が集まっているので、彼らがまた「くまちゃんハウス」を盛り上げてくれると思います。

-それは頼もしいです。

ボランティアさんも多彩です。現場監督をやっていた男性とか、芸大卒で油絵専攻なのでいろいろなアートワークをやってもらっている方もいるし、中国からの留学生で中国語講座をやりたいという女性もいます。お菓子作りが好きな中学3年生の女の子は、今お菓子作りの企画を全部やってくれています。
私はこうやって関わってくれる人たちの企画を手伝うのが楽しいんです。自分たちの引き出しからは、もうそんなに新しいことが出てこないと分かっているから面白くないじゃないですか。新しい人が入ってくると「この人と一緒だと何ができるんだろう」と、すごくワクワクします。

-「くまちゃんハウス」は何かやってみたい人に開かれた場所なんですね。

「浜さんはこれから『くまちゃんハウス』をどうしたいですか?」とたまに聞かれるんですけど、私自身が「こうしたい」というのは特にありません。
関わってくれる人が自由に枝葉を広げてやってくれるのが私は一番楽しみだし、私の想像を超えた「くまちゃんハウス」が出来上がってほしいと思っています。

子どもたちのために駄菓子も用意されている。

子どもたちのために駄菓子も用意されている。

街に出没し、美味いコーヒーを淹れる

-「みたかコミュニティ・コーヒーマスター」はどのような活動で、どういうきっかけで始まったのでしょうか。名前もユニークですよね。

「暮らしの保健室」を一緒にやっている小林さんとの雑談の中で、たまたまコーヒーの話が出て、「街の中でコーヒーを淹れて回れたら面白いよね!」という流れになりました。

-「いろいろなところに出張してコーヒー淹れます」みたいなものですか。

彼女(小林さん)はリサーチするのが得意な人で、「横浜の方で定年後のおじさん達が集まって、いろいろな所に出張してコーヒーを淹れているらしい」という情報を仕入れてきました。二人で現場に行ってみたら、皆さん生き生きとコーヒーを淹れているんです。それを目の当たりにして、「三鷹でやりたいよね」という話になりました。
どうせなら、ちゃんとしたコーヒー屋さんに淹れ方を教えてもらってやろうと、新川の刈谷珈琲店さんに紹介してもらいました。そのお店はマスターと姪っ子さんとでやられているんですけれど、姪っ子さんが私たちと割と歳が近いこともあって、話をしたらノリノリで(笑)。
コーヒーを淹れて街の中に入り込んで行くイメージだから「コミュニティ・コーヒーマスター」という名前にしたんです。

ハンドドリップコーヒーで中央通りのMマルシェに出店。

ハンドドリップコーヒーで中央通りのMマルシェに出店。

-じゃあ、刈谷珈琲店のマスターが先生なんですね。

マスターは元々コーヒーメーカーに勤めていて産地とかにも詳しいので、コーヒーの歴史や、どういう豆の取引が世界で行われているかという座学から始まり、あと2回は実践編で淹れ方を教わるというコースを作りました。それを卒業した人たちが街の中で今いろいろと淹れています。

-どういう方々がコーヒーを淹れているんでしょうか。

最初どうやって募集しようか考えた時に、知り合った人たちに声をかけてこの人はと思う人を釣ってくる“一本釣り”がいいんじゃないかという話になりました。それにまんまと引っかかったのが、初期のメンバー10名です(笑)。 Facebook からも何人か入ってきていて、あと刈谷珈琲店の常連さん。本当に多種多様な人が集まっています。定年後の人もいますが、割とママさん世代も多くて、めちゃめちゃに面白い人たちが集まりました。

-いいですね、一本釣り(笑)。今コミュニティ・コーヒーマスター達はどのような場所に出張されているんですか。

元の仕事である在宅医療の知り合いの紹介という関係で、高齢者施設、有料老人ホームとか老健が比較的多いですね。社会福祉協議会の「ほのぼのネット」関係からも来ます。あとは包括支援センターとか医療関係。あとは地域の M マルシェとかルーテル大学の学祭。ルーテル大の学生もコミュニティ・コーヒーマスター2期生に一人います。

-ルーテル大学にもこれから広がるかもしれません。

楽しみです。若い子達も入ってくれたら面白いですよ。

農業公園の焚き火イベントで豆を焙煎するコーヒーマスター。

農業公園の焚き火イベントで豆を焙煎するコーヒーマスター。

-「くまちゃんハウス」もそうですが、そんなふうに関わる人が増えていくのには何かコツみたいなことはあるんでしょうか。

よくわからないですが、みんな私が頼んでないとこともやってくれるんです。コーヒーのメンバー達もクリスマスカードや旗など、勝手に小道具類を作ってくれています。 私が頼りないからか、「もっとこれをやった方がいいんじゃないか」ということを口に出す前に、もうどんどんやってくれます。それがまた面白いから、私は「面白いね!」と言っているだけ(笑)。
集まってくるのはみんなそういうノリの人ですね。「揃いも揃った」というか、最高に面白いメンバーです。

-なるほど。同じ街に住んでいても、私の見ている三鷹と浜さんが見ている三鷹はちょっと違うかもしれません。都心に通勤・通学していると気がつきにくいかも。

私も地域活動がこんなに面白いとは思っていませんでした。もうやめられないですね。 仕事とか義務で繋がっているわけではなく、勝手に巻き込まれてくる人たちとのつながりが地域活動にはあって、それが面白いです。

-浜さんが巻き込んでいるんじゃなくて?(笑)。

いや、私は巻き込んでいないです(笑)
きっかけがあったら地域で面白いことができそうな人は、もっとたくさんいらっしゃると思います。たぶん私はきっかけを作っているだけなんですよ。
私の夫はアウトドアが大好きで、私も初めて山のキャンプに連れて行かれて、すごく星が綺麗でハマってしまいました。「くまちゃんハウス」の常連さんにもアウトドアが好きな人たちがいるので「くまちゃん登山部」を作ってよ!」と言っているところです。

-いいですね。どんなふうに広がっていくか楽しみです。

くまちゃんハウスの忘年会には、地元のミュージシャンたちも参加。

くまちゃんハウスの忘年会には、地元のミュージシャンたちも参加。


この記事を書いた人
萩谷 美也子 (いて座)サイエンスライター

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