クラフトビールの奥深い魅力で人と人をつなぎ暮らしにとけ込んだコミュニティを醸成したい。

小笠原 恵助さん

三鷹駅南口の住宅地の中にあるのが、銀色のタンクを備えたクラフトビールのブルワリー(醸造所)。ここで製造されたクラフトビールは、併設のカフェで楽しむこともできます。もともとデザインとマーケティングを主に活動してきた小笠原さんが、クラフトビールのブルワリーを経営するに至った経緯と、クラフトビールに寄せる熱い想いを伺いました。

小笠原 恵助さん(しし座)
映像系デザイン、運送会社のドライバー兼デザイナーを経てデザイン事務所を立ち上げる。2013年から三鷹でクラフトビール専門店「Drunk Bat Bottle Shop」を経営。2019年1月にOGA BREWING CAMPANYと「cafe HOOOOP」開店。

たまたま飲んだクラフトビールに衝撃を受け、その魅力を伝える方法を探り始めた

-今回は三鷹市下連雀にある「cafe HOOOOP」にうかがっています。小笠原さんの会社「OGA BREWING CAMPANY」が、地元三鷹産のキウイを材料にした新作ビールをお披露目しているところです。記念すべきビールになりますね。おめでとうございます。

ありがとうございます。およそ6年前に三鷹駅南口近くにクラフトビールの専門店をオープンし、3年前から自分たちのブランドを展開するブルワリーを建てようとプロモーションを開始しました。「OGA BREWING CAMPANY」が公式に稼働したのが今年の1月19日です。

本日、キウイビールをお披露目して、やっとスタートラインに立てたと感じています。これからどんどん地域の素材を使ったビールを外に発信して行きたいです。次は三鷹産小麦のクラフトビールを作る予定で、すでに原材料もいただいています。小麦はビールにする際に「麦芽化」といって栄養を貯め、さらに破砕する工程があるので、4月か5月くらいのお披露目を予定しています。

ブルワリーのタンクの見える窓には、左から順に小笠原さんの手がけたビールのボトルが並んでいる。

ブルワリーのタンクの見える窓には、左から順に小笠原さんの手がけたビールのボトルが並んでいる。

-そもそもデザインの仕事をされていた小笠原さんが、クラフトビールの造り手になったわけですが、まずはクラフトビールとの出会いについて教えてください。

その前にも海外に行った時などに飲んではいたのですが、はっきりクラフトビールを認識したのは2007年の12月でした。国分寺にあるクラフトビールの名店「ガンブリヌス(Gambrinus)」がオープンしたてくらいの時です。その時点を自分の「クラフトビール事始め」に位置づけています。

大阪の箕面にある「箕面ビール」のW-IPAという銘柄のビールを飲んだのですが、衝撃でした。普段飲んでいるビールと全く違う。「ビールにはここまで豊かな表現ができるんだ!」と感じ、そこからのめり込んで行きました。今もその感動は薄れることはなく、そのままお客様にお伝えすることができます。

-ビールが特にお好きだったのですか?

いえ、お酒全般が好きで、その前はずっと日本酒ばかり飲んでいました。当時は仕事柄、紙媒体のデザインにいろいろアンテナを張っていたので、ガンブリヌスに行ったのも、何か紙媒体でたまたま紹介記事を読んだからです。当時の職場が国立で武蔵小金井の自宅との間が国分寺だったので、「ビールの専門店ってどういうものだろう?」とちょっと立ち寄ってみたのです。

そこでは毎日13種類の樽生ビールを提供していました。まずそこで一通り飲んで、調べれば調べるほどいろいろなビールがあることがわかりました。それからブルワリーまで出向いていって併設のレストランで飲んだり、ボトルを取り寄せて飲んだり、「クラフトビールって、海外のものも含めると一生かけても飲みきれないくらいあるんだな」と思いました。

-最初はクラフトビールのファンというか飲み手だったのですね。

今でも気持ちは飲み手ですよ(笑)。そのうち、好きが高じて知り合いのブルワリーのラベルのデザインをいくつか手がけさせていただきました。ブルワリーに行って、勝手にそこのロゴを使ったデザインを提案したり。まあ迷惑な話だったでしょうけれど(笑)、大好きなクラフトビールの魅力を伝えるにはどうすればいいか、自分なりに模索していました。

私はマーケティングをずっと手がけてきたので、まずそちらから発想します。ずいぶん前から「良いもの」を作っているだけでは流通しない時代になっていて、売るためにはプロモーションやブランディングが不可欠です。でもやはり「良いもの」でなければ売れません。職人になるほど「良いものだから売れるはず」と「待ち」の姿勢になったり、逆にマーケティングに注力しすぎて品質が下がったり、そのバランスが難しい。私は6:4で職人よりビジネスマンが優位な人間なので、良いものを作るのは大前提として、まずはたくさんの人にクラフトビールに触れてもらいたいと考えました。

うちのメインコンセプトは、クラフトビールを初めての飲む方や、少し飲みなれた方が気軽にクラフトビールに触れる場所になるということです。クラフトビールの成分や原材料などの専門用語が飛び交っているのが好きな方には、そういったマニア向けのお店を紹介します。

ブルワリーに併設のカフェでは、自家製ビールをはじめとするクラフトビールを楽しむことができる。

ブルワリーに併設のカフェでは、自家製ビールをはじめとするクラフトビールを楽しむことができる。

三鷹で自らのブルワリーを立ち上げ、自家醸造ビールを手がけるまで

-お店を三鷹に持とうと思われたきっかけは?

クラフトビールにハマるうちに、自分の判断で商品を流通させたり、経営や運営ができる場所がほしいと思い始めました。ちょうどその頃、知り合いの伝手で、クラフトビールのお店を設備ごと引き継ぐ形になりました。それが三鷹駅南口近くにある「Drunk Bat Bottle Shop」です。それまでは中央線に住んでいたのに、三鷹駅にはほんの数回しか降りたことがなかったんです。たまたまそのような物件があったので、三鷹とご縁ができました。

場所ができてクラフトビールを提供していく中で、今度は自分のオリジナルビールを造りたくなりました。でも、調べてみたら気軽にできるものではないことが分かって、知り合いのところで「手伝わせて下さい」「一緒に作らせてください」とお願いして、修行を兼ねて造り始めました。委託醸造という形で他のプラントをお借りして、ビールのレシピを作ってレシピと原材料持って行って樽と瓶詰めにして展開していました。

-それがご自分のブルワリーと「cafe HOOOOP」にどのようにつながってくるのでしょうか。

「Drunk Bat Bottle Shop」をオープンしてすぐの段階で、ブルワリーをやろうと思っていました。よそのメーカーのビールを扱うのも楽しいのですが、ビジネスとして成り立たせる上でもメーカーになろうと考えたのです。

メーカーになれば製造はもちろん、店で提供する仕事や、経理や配送、デザインなど、いろいろな仕事を生み出すことができます。若い世代の人たちにとって魅力的な職場にして行きたいし、規模を拡大して新しい展開もできます。若い人たちが「この人は何か楽しそうにしているから、自分もやってみようかな」と思ってくれたら、この業界全体がもっと広がり発展していくのではないでしょうか。

うちの社是は「やりたいことを形に」です。クラフトビールを一つのキーワードとして、「製造をしてみたけれど、ちょっとやりたいことと違う」ということなら、「接客の方がいいな」、「デザインがやりたい」、「配送でお客様に持っていくほうが楽しい」などなど、何かしらやりたい事を探ってもらいたいと思います。

メーカーになった理由としては、それが大きいですね。

-ここはメーカーとしてはどのくらいの規模のものなのですか。

専門用語では「マイクロブルワリー」と言います。その中でも中ぐらいの規模ですね。これの1/3くらいのミニマムなものもありますし、倍ぐらいの規模のものもあります。うちより小さいと、自分のところのみで流通させる設備になります。これくらいだと外販ができ、瓶詰めをしながら一般飲食店に提案し続けられるのです。

うちは今日本全国のビアバーや飲食店、問屋さんや酒屋さんにも卸していますが、一番多いのは街場の飲食店です。居酒屋さんや、蕎麦屋さん、カレー屋さんなど、クラフトビールを専門店だけでなく、普通の飲食店で飲めるようにしないと広がっていかないと感じているからです。私がやりたいのは、一般の人にクラフトビールを知って親しんでもらうことですから。

三鷹市下連雀の住宅街の中にあるcafe HOOOOP。気軽に立ち寄れるカジュアルなカフェスペースに、本格的なクラフトビール提供設備が同居。

三鷹市下連雀の住宅街の中にあるcafe HOOOOP。気軽に立ち寄れるカジュアルなカフェスペースに、本格的なクラフトビール提供設備が同居。

クラフトビールを媒介に地域の人たちが、気軽に立ち寄り会話する場をつくりたい

-確かに、何も知らない人がいきなり専門店に入るのは難しいかもしれません。

そうなんです。だからこそ「cafe HOOOOP」はバーでもなければビアカフェでもなく、誰でも気軽に入れて人が集まる場としてのカフェにしたのです。コーヒーや紅茶もあり、パソコンを持ち込んで仕事したり、ちょっとしたミーティングやワークショップができるスペースもあります。ガラス越しにビールのタンクが見えるので、ここにふらっと来た時に「あ、ここでビール造っているんだ」と、試しに飲んでもらえればと思っています。

私はクラフトビールが暮らしの中に当たり前のようにある状況まで持って行きたいんですよ。今はクラフトビールが好きな人でも、週一回「じゃあ飲みに行くぞ!」というちょっとしたイベントになっていると思います。あらかじめお店やビールのラインナップをネットで調べたりしてね。

海外であれば、ふらりと立ち寄って一杯だけ飲んで、常連さんとおしゃべりして帰る。そういうコミュニティスペースとしての機能をブルワリーが果たしています。時間帯もモーニングから 夜9時10時くらいまでやっています。日本では代官山と京都にキリンの子会社がやっている「スプリングバレーブルワリー」という店があって、そこがモーニングもやっています。行くたびにうらやましいと思います。

カフェなので軽食やスイーツも。ノートパソコンを持って仕事や打ち合わせに使う常連さんの姿も見かける。

カフェなので軽食やスイーツも。ノートパソコンを持って仕事や打ち合わせに使う常連さんの姿も見かける。

-それで「cafe HOOOOP」は住宅地の中にあるのですか。

ここは以前コンビニだった店舗なので、ごらんのようにガラス張りです。見つけた時に「ここだ!」と思いました。私がイメージしているのは、椅子に座れなくてもスタンディングでちょっと飲んで、犬の散歩のついでにおじいちゃんやおばあちゃんが来て、「今日孫が来るから」と言って昔のお豆腐屋さんみたいに持ち帰り用の水筒にビールを入れてテイクアウトするようなブルワリーです。地域のいろいろな年齢層の人が立ち寄っては、ビールを媒介におしゃべりができる。そういった文化が根付いた空間は、すごく心地いいと思います。

「いらっしゃいませ、こちらへどうぞ」ではなくて、「今日こんなの入っているんだけれど、どう?」というざっくばらんなコミュニケーションが生まれる場所。そのきっかけがクラフトビールなんです。だからこそ「クラフトビールのことは何もわからないんだけど…」という人にこそ、気軽に入ってもらいたいです。

そして、一番ありがたいのがお客様からのフィードバックです。「ちょっと苦いからもっとマイルドなのがいい」とか、逆に「酸味のあるのより、苦い方がいい」とか。次にビールを造るときにそういった意見を反映させながら「こんなビールが好みに合うんじゃないかな」とイメージして造り、そのビールを「ああ、こういうふうにもできるんだ」と味わってもらいたい。そういうキャッチボールができると楽しいじゃないですか。

今回お披露目されたのは、三鷹産キウイを使ったキウイビール。

今回お披露目されたのは、三鷹産キウイを使ったキウイビール。

-今回お披露目の三鷹産キウイビールは、どういう特徴のビールですか?

キウイのようにフルーツを使ったビールの場合、設計次第でフルーツ寄りにもビール寄りにもできます。今回のキウイビールは、ビールのもとを造るところから果肉を使ってフルーツに寄せていますが、クラフトビールとしてのクオリティもしっかり出していますので、ぜひ試してみてほしいです。

-これからさらに三鷹産の材料を使ったビールを造っていかれるのですね。

さっきお話ししたように、次が三鷹産小麦です。キウイの後には甘夏が収穫されるし、銀杏でもできるし蜂蜜も使えます。野菜も使えるので、いろいろ挑戦してみたいですし、農家さんともつながっていきたいです。

多くの可能性を秘めたクラフトビールだから、その楽しみ方はこれからもっと広がってゆく

-ビールの造り手としては、どんなことが大切だと思われますか。

自分のイメージを100%体現するビールは無理としても、自分のイメージに対してどこまで真摯なビール造りができるかが重要だと思っています。私もある程度、自分のイメージをビールで表現できるようにはなっていますが、新しい知識を入れればさらに表現の幅が広がっていきます。

正確な数字ではありませんが、うちと同じようなブルワリーが400ぐらいあるので、そういう方々とのコミュニケーションから面白い化学反応が起きます。それと私が最も好きだし得意なのが、一般の飲み手の方々の要望を具現化することです。そういうリサーチは常にしています。傍目にはリサーチなのか飲み歩きなのかわからないでしょうけれど(笑)

ワインの専門家から「メルローみたいなミディアムボディのビールはある?」と聞かれたり、天ぷら屋さんから「天ぷらに合うビールがほしい」と言われたり。今ではクラフトビールも「ペアリング」と言って食事と合わせることをよくやりますね。私はお寿司と天ぷらが好きで、それに合わせたビールを今まで何回か造ってみました。夏くらいまでには商品化したいです。

キウイビールお披露目の会で談笑する小笠原さん。お客さまとの会話の中にも次のビールの方向性を探っている。

キウイビールお披露目の会で談笑する小笠原さん。お客さまとの会話の中にも次のビールの方向性を探っている。

-クラフトビールに限らず、これからやってみたいことは?

私くらいの年代の働き盛りの人向けに首都圏でオーベルジュをやりたいです。クラフトビールと宿泊施設としっかりした食事があり、首都圏で落ち着いて楽しめる場所はほぼないんですよ。それができれば、新しい情報にアンテナを張っている人たちが集まる場所になりそうなので、どこかのタイミングでやりたいと会社の役員や株主にも言っています。

-2つの店舗とブルワリーを経営されて、三鷹についてどのような感想を持たれているのでしょうか。

店をやってみて、三鷹には良識のある人が多く、良いものをしっかり評価してくれる土壌があると思います。クラフトビールのお店も、ちゃんと自分たちの思いがあって商品のクオリティが上がっていければ必ずここに根付くと思いました。これから「吉祥寺というビックタウンの隣にある三鷹」ではなく、三鷹というブランドが育っていくのではないでしょうか。そのためにも、住みやすさや人の良さやコミュニティが世代を超えて引き継がれてほしいです。

私は今40代なので、たとえば60代と20代が顔見知りになって世間話をするなど、クラフトビールを媒介に地域の人たちが世代や職業、立場を超えてつながるお手伝いができるといいなと思っています。


この記事を書いた人
萩谷 美也子 (いて座)サイエンスライター

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