1店目のカフェ ハイファミリア。インテリアや植物の絶妙な配置が居心地の良さを生み出している。

さまざまな人が集い、かつ、居心地がいい。カフェから街を豊かにする仕掛け人。

鈴木 佳範さん

「カフェ ハイファミリア」といえば、三鷹の素敵なカフェとして名前が上がる筆頭格ではないでしょうか。ここを運営する会社の社長が、鈴木佳範さんです。28歳でカフェ ハイファミリアを出店、現在は武蔵境にも店舗を構えています。たくさんのスタッフを抱えながら、いまも店頭に立つ鈴木さん。鈴木さんの思い描くカフェの姿から、若くしてお金もないなかで次々と出店した手腕まで、ざっくばらんにお聞きしました。

鈴木 佳範さん(おうし座)
パブリック・スペース株式会社代表取締役。岩手県盛岡市出身。カフェに関心を持ち、留学を志したが反対され、明治大学商学部で学ぶ。カフェを主題に卒論を書く。デイリーズ勤務を経て、個人事業でカフェ ハイファミリアを開店した後、会社を設立。カフェ サカイ、オンド(他社との複合店)も運営。

3つのカフェを経営し、自ら店に立つ

-鈴木さんが3つ目に出店されたond(オンド)におうかがいしています。接客中のカウンター越しですが、いろいろお尋ねしたいと思います。その前に、多店舗展開をされながら、いまだに社長自ら接客をされていることに驚きました。

ここの店長はバンドマンなんです。今週はいっぱいライブがあるみたいで(笑)、僕がお店に入りました。
週に5日、3店のどこかに立っています。社長がたまにお店に来るのは、スッタフにとっていい刺激だと思っています。飲食店はいま厳しい状況ですから、スタッフ40人中、社員は6人と、社員が少ないんです。なんでもできるのは僕だけだから、足りないところに入っている、という理由もあります。

-運営されているお店についてうかがいます。1店目が三鷹産業プラザ1階の「Cafe Hi Famiglia(カフェ ハイファミリア)」ですね。

そうです。僕はその前は、デイリーズ(三鷹のインテリアショップ)の飲食部門のマネージャーをしていました。産業プラザ1階の店舗の入れ替えがあり、デイリーズに出店の打診があったんです。そのころ28歳だったんですけれど、「自分でカフェをやりたいなら、やったらいいじゃないか」と当時のデイリーズの社長に言われました。

-28歳で出店とは思い切りましたね。面積もけっこう広いです。

カフェをやるなら、25坪以上がいいと思っていたんです。お店のポリシーが「お店に思いを込めないこと」なんです。25坪以上になると、「店主こだわりの店」ではなくて、「みんなのお店」感が出てくるんですよね。
名前もちょっとわからないぐらいがよくて、「Hi Famiglia」は仲の良い家族をイメージしながら、造語にしました。

-武蔵境駅の東側、中央線の高架下に出した2店目の「cafe sacai(カフェ サカイ)」は、地名が由来ですか。

出店のお話をくださったJR中央ラインモールの当時の社長さんが、「街を代表するようなカフェを作ってもらいたい」とおっしゃったので、「じゃあ、街の名前をつけます」と。あと、よく、中央線の北側か南側かという話になりますから、どっちでもない「境目」という意味でもあります。

-そして「カフェ サカイ」のお向かいにあるここ「オンド」は面白い作りですね。

ショッピングモールにあるフードコートの“小さい版”です。惣菜、スウィーツ、地ビール、コーヒーのお店が一緒に出店し、僕の会社はビールとコーヒーのサーブをしています。「オンド」は「温度」。コーヒーは92度で淹れる、というように、温度へのこだわり、手作りの温度、そこから伝わる作り手の温度から「オンド」という店名にしました。

-なるほど。もう一つ、会社のお名前である「パブリック・スペース」も、社名としてはユニークだと思います。どうしてこのような社名にしたのですか。

大学生のころから、カフェと同時にインテリアにも興味があったんです。インテリアというとパーツになっちゃいますけれど、インテリアが置かれる空間に関心がありました。
岩手から東京に出てきて、どうして人は電車に乗ると端に座りたがるのか、不思議だったんです。空いていても、みんな端に座る。岩手は家が広いですけれど、東京は家が狭いじゃないですか。みんな広い家に住みたいと言うのに、電車では端に座る。けっきょく狭い空間のほうが居心地がいいんですよね。どうしてパブリックな空間で、パーソナルを求めるのか。

-言われてみると、たしかに矛盾してますね。

カフェの空間はそれとよく似ているんです。みんなと一緒にいたいけれど、自分の場所は確保したい。
イタリアやフランスの、テーブルと椅子を外に出して、お店が街とつながっているようなカフェに僕は憧れていたんです。みんな対面でなく、外を見ながらお茶を飲んでいる。社会科の教科書の写真で見たんですけれど、衝撃を受けました。
だから、そんな垣根を作らない空間にしたんです、ハイファミリアは。でもみんな居心地が悪そうで、落ち着かないという雰囲気がお客さんから伝わってきました。半年ぐらいで、目線をさえぎるように、間に本棚やライトや植物を置いていって、いまの間取りになりました。そうしたら、お客さんが増えました。

1店目のカフェ ハイファミリア。インテリアや植物の絶妙な配置が居心地の良さを生み出している。

1店目のカフェ ハイファミリア。インテリアや植物の絶妙な配置が居心地の良さを生み出している。

-日本らしい居心地の良さを追求した結果なのですね。ハイファミリアでの試行錯誤を経て、その後の2店舗はその経験を活かせたのではないですか。

ハイファミリアは居抜きだったので、ある程度間取りは決まっていましたが、カフェ サカイはゼロからだったので、どこに厨房を作るか、トイレはどうするか、ということから決められました。お店を何度も作るチャンスはなかなかないと思うので、僕は恵まれていますね。

-オンドはどうですか?

ここは何人かでシェアをすることが前提でしたから、大変でしたよ(笑)。みんながああしたい、こうしたいって。それまでの2店は自分だけで作ればよかったけれど、人の意向を組み入れる大変さを学びました。
人間ってやったことがないことをいくら頭で想像しても、実現できない。実現して修正していったほうが早いと思います。次はいいお店ができそうな気がしますよ(笑)。家も「3軒建てたら理想の家ができる」って言いますよね。

カウンターでの接客中は、お客さんとの会話が弾む(オンド)

カウンターでの接客中は、お客さんとの会話が弾む(オンド)

カフェは社会性を学ぶ空間

-鈴木さんは大学生のころからカフェに興味があったのですね。

僕、商学部商学科マーケティングコースで、カフェを研究していたんです。
カフェって400年前からあるんです。400年間、あまり形を変えずに残っている商売ってあまりないですよね。

-そんなに歴史のある商売なのですね。カフェのどんなところに魅力を感じますか。

ただコーヒーを出す空間ということではなく、不特定多数の人間が、飲食を通して場を共有するところです。そこで何かに共感して、社会性を学ぶ。
じつは1600年代後半に、トルコでカフェを禁止する法律ができたことがあるんです。みんなカフェに集まって、昼間から話したり、コミュニケーションを取ったりしていたら、社会への不満が集まり、暴動が起きるようになったんです。政府がそれを潰しにかかって、カフェが禁止された。僕、それがすごく面白いと思うんです。
日本には居酒屋文化があるけれど、飲みながら話したことって、実現される可能性が低いじゃないですか(笑)。みんないいことを言うけれど、アクションにはならない。だから素面でそういうことを言える場をやりたいなって。カフェはそういう役割を担っているんじゃないかと思います。

-社会性という観点からカフェを考えたことがありませんでした。

老若男女が集まる場って、カフェ以外にあまりないじゃないですか。カフェに来たら、子育てしているお母さんたちは大変そうだなぁとか、膝が悪いおじいちゃんおばあちゃんは低い席だと座りにくそうだなとか、いるだけで学ぶことがいっぱいある。
コーヒー代400円ぐらいならみんな出せる。400円を出して、カフェでいろいろなことを共有しているんです。食べ物だとお金を持っている人は高い店に、ない人は安い店に行ってしまう。同じカテゴリーの人が固まってしまうんです。僕は別のカテゴリーの人が同じ空間にいて、お互いを理解したり思いやったりしなくなったら終わりだと思うんです。カフェはその意味で、間口が広い。

オンドは2017年6月にオープン。他社と協力しての出店は鈴木さんにとって初の試み。

オンドは2017年6月にオープン。他社と協力しての出店は鈴木さんにとって初の試み。

夢を叶えるためなら、お金は道具

-10年間で、地元に根付きながら、3店も開店させた手腕が気になります。

初めはいまの僕の歳、40ぐらいで、岩手でカフェを開こうと考えていたんです。でも、さっき言ったように、28でチャンスが来た。ネックは資金でした。1,000万円必要だったのですが、40万しか持ってなかったんです。
「それでよくやろうと思ったね」と言われるんですけれど、僕、お金が怖くなかったんです。お金の考え方が他の人と違ったかもしれない(笑)。引っ張れるだけ引っ張って、ダメだったら自己破産すればいい。そういう考えだったからできたのかも。お金は人を幸せにするためにあるのに、お金のために死んだり消耗したりするのは間違ってる、お金は道具だと思ってたから、実現できるなら借りちゃえ、と。

-借りられたんですね。

けっこう大変でした(笑)。そのとき初めて学んだんですけれど、信用がないと銀行からお金を借りられないんですね。銀行から400万円借りて、足りない600万円は親戚に頼んで借りました。僕、そういうところ、羞恥心が欠落しているんです(笑)。

-堂々としてますね。

そうそう。5年ぐらいで返せましたけれどね。お金で解決できるなら、やっていいなと思ったんです。

-カフェ サカイはどのように出店したのですか。

ハイファミリアを開いて4年目に、三鷹の野菜を月に1回、場所を貸して売ったんです。
きっかけは3.11でした。三鷹市の姉妹都市の福島県矢吹町の野菜が、風評被害で売れず、どうにかならないかと相談され、矢吹のものを使ったモーニングを出しました。そこから、僕たちの街でも野菜を作ってるじゃないかと考え始めました。地産地消も興味があったので、三鷹で地産地消をしようと。
三鷹の野菜の販売は、1年ぐらいやりました。それをJR中央ラインモールの社長さんが見ててくれていたんです。「さかいマルシェ」というのを武蔵境でやるから、出てみないかと声をかけてくださって、1年ぐらい出ました。そこから「カフェをやらないか」という話になっていきました。
そのころ年商4,000万ぐらいだったけれど、「出店するのにいくらかかります?」と聞いたら、「2,000万円ぐらい」と。「無理です」と断ったんです。

-ハイファミリア出店時の自己資金の少なさを思ったら、条件は悪くなさそうですが…。

このときのほうがデカいなぁ、怖いなぁと思いました。でも僕、なんでも言っちゃうから、「お金がない」って正直に言いました。「じゃあ、ある程度の枠は作ってあげる」と言われて、「それでもお金が足りない」と言ったら、その分をお借りすることができました(笑)。

-2店目も堂々としてますね!

あとあとになって考えたら、すごい費用対効果ですよね。

-野菜を売っていたころに、こうなっていくことを狙っていましたか。

いいえ、まったく狙ってないです。だいたい狙ってやったら、うまくいかないです。でも1店で終わるとも思ってなかったです。いまもいい話があったら乗るようにしています。

-お金に恐怖しない感覚は、どのように養っていったのですか。

夢を叶えるのに、一番のネックがお金ですよね。お金を気にしなかったら、何をしたいのかを考えるようにしています。お金で解決できることはけっこう安いと思うんです。
僕の親は5人兄弟ですが、じいちゃんは戦争に行って、すべてを失って、帰ってきてからいろんな商売をやって、子どもを5人も育てたんです。そんなんでも生きていけたのなら、やれないことないなぁって。
それに僕ら団塊ジュニアは、仕事がなかった世代です。新卒一括採用、年功序列社会で、それに乗れなかったからといって、運が悪かったと諦めるのは嫌でした。働きたいところがないなら、自分でやろうと。

ハイファミリアでの野菜販売から、わらしべ長者のように開店につながったカフェ サカイ。

ハイファミリアでの野菜販売から、わらしべ長者のように開店につながったカフェ サカイ。

カフェがある景色を作るために

-3店のもう一つの特徴が、公共の空間に出店していることです。

もともと「日本にカフェがたくさんある景色を作りたい」と思ってました。一般の大家さんから借りてカフェをやることもできるんですけれど、公がやることによるインパクトは大きいです。図書館や役所の入口にカフェがあったら、カフェっていいよね、カフェって普通だね、とすごいスピードでスタンダードになると思うんです。
それに、カフェがあったら、建物のイメージがよくなりますよね。

-たしかに、公共施設の堅苦しさがカフェによって和らぎますね。

産業プラザでやってみて、この路線はいいなと思いました。

-公共施設には老若男女が出入りしますから、鈴木さんのカフェ像にも合致する気がします。

「○○カフェ」と、カフェの名前がつくイベント、あるじゃないですか。人々はカフェを、「フランクな集まり」として受け入れたんですよね。カフェという言葉が一人歩きしたときから、こうなることを予想していました。

-今後も公共空間への出店を考えているのですか。

はい。すでにいくつかお話をいただいています。

ただ、日本はいま、飲食業が供給過多の状態です。東京オリンピック後の日本がどうなるか、僕は予想ができないので、生き残っていればチャンスが来ると思って、こらえる時期だなとも考えています。
大企業のようにコストを抑えられないし、給料も大企業のようには出せないし、かといって個人店のように小回りも効きません。僕らの店のような規模の優位性はなんなのか。研ぎ澄まして見出していかないといけません。それがここ1年の課題です。

-これからの3店をどのように考えていますか。

こっち(カフェ サカイ、オンド)は街ができあがってきました。
逆にハイファミリアは街のなかでポツンとしてしまっているんです。三鷹の人口は増えているし、地価も上がっているのに、街の雰囲気が寂しくなってきている感じがします。そんななかで、あそこに店があり続けることは、街への貢献だと思っています。ランドマーク的にあそこに居続けて、あの店を通じて、街にカフェがある良さやうちの会社について知ってもらえたらいいですね。


この記事を書いた人
小田原 澪 (てんびん座)ライター

続きを見る

関連記事

  1. クラフトビールの奥深い魅力で人と人をつなぎ暮らしにとけ込んだコミュニテ…

  2. 身近な自然の不思議がたくさん。井の頭公園の密かな人気スポット。

  3. 小さくてもいい、感動のあるお店でありたい。心に居場所をつくる街の家庭料…

  4. 秘訣は「頑張らない」。30代会社員、地域活動のすゝめ

  5. 居心地良く整えた仕事場兼店舗を友人とシェア こつこつ集めた大好きな古道…

  6. 三鷹駅近のビル街にある銭湯 春の湯

    ワンコインの悦楽〜三鷹駅近のビル街にある銭湯 春の湯

  7. こだわりの手仕事を伝える住宅街の江戸前寿司屋 宝寿司(三鷹台駅)

  8. 三鷹についに誕生! 三鷹初・三鷹のクラフトビール

    三鷹についに誕生! 三鷹初・三鷹のクラフトビール

最近の記事

  1. 古本カフェ・フォスフォレッセンス
  2. 1店目のカフェ ハイファミリア。インテリアや植物の絶妙な配置が居心地の良さを生み出している。

月別アーカイブ一覧

カテゴリー