あふれる好奇心がすべての原動力。たくさんの肩書きが示す仕事観と、次なる興味は?

たかぎ りょうこさん

コミックエッセイの著作が14冊。イラストレーターでライターのたかぎりょうこさんは、翻訳家でもあり、起業や就職の相談員でもあり。その肩書きの数だけでもバイタリティーを感じます。何かに興味を持ったら、とにもかくにも根掘り葉掘り。興味のアンテナの張り方、調べ方、興味を仕事にしてしまう方法、現在の興味の向きまで、とっぷりうかがいました。

たかぎ りょうこさん(おひつじ座)
イラストレーター、ライター、中国語工業翻訳者、就活アドバイザー、起業コーディネーター。大学卒業後、台湾のスピーカーメーカーなどを経て、2005年に三鷹に家を建てると同時に独立。自身に芽生えた興味を次々と著作にして発表。『改訂増補 技術者のためのひとこと中国語フレーズ集』(アスク刊、2017年)、『リバウンド女王、人生最後のダイエット』(マガジンハウス刊、2015年)など。

多業種をまたにかけるのは強み

-プロフィールを拝見するだけで、イラストレーター、ライター、中国語の工業翻訳、企業相談員、大学生向けの就活アドバイザーと、とても一人の人の肩書きとは思えないほど多彩です。

本業はコミックエッセイですね。文章とイラストを一緒に書いて、連載や本にしています。
ただそれが一番の収入源かというと、そういう年もありますが、主たる収入源は中国語の工業翻訳の年が多いですね。

-工業に限定した中国語翻訳なのですね。

そうですね。日本企業が中国の工場に、生産の方法などを伝えるための翻訳です。日本語から中国語にすることが多いです。中国の沿岸部では人件費が高くなったので、日本企業がベトナムなど他国に工場を移すのかと思っていたのですけれど、中国の内陸部に行って生産を続ける企業が多いみたいで、まだ需要は続いていますね。

-どのような経緯でそんなニッチな翻訳業を始められたのでしょうか。

学生のころにスピーカーを作る台湾企業に入って、日本のお客さんと中国の工場をつなぐような仕事をしたのが始まりです。大量生産をする製造業の中にいたので、製造の工程や試験の仕方、出荷の仕方など、ものづくりの現場のことなら一通り流れはわかるんですね。それがわかっている翻訳者はわりと少ないので重宝されているみたいです。

じつは製造業に詳しいことは他の仕事にもつながっているんですよ。私はメーカーの広報誌に漫画やエッセイを書いていますが、もしあまり製造業に詳しくない人だったら、工場見学をしても「ここで作ってるんですね」で終わってしまうじゃないですか。そうではなく「ここは他の製造業では見られない」というところを見つけると、メーカーの方にとても喜んでもらえるんです。

-なるほど、最初の就職で得た知識が、今に至るまでとても役立っているのですね。

はい。でもフリーランスで独立したてのころにしていたライターの仕事は、住宅や建築が専門です。建築を勉強してきたわけじゃないのですが、海外も含めて十数回引っ越しをしたりした経験や、物件情報を見るのが大好きでチラシマニアだったので、実際に街を歩いて住宅を見ているだけで造りや外観から、何年代の戸建はこう、マンションはこう、といつの間にかわかるようになってしまったんですよ。好奇心ですよね(笑)。

三鷹に自分の家を建てる時にブログを書いていたのですが、それを見た編集者が取材にきてくださって、その流れで外部ライターとして書きませんかと。そのうち地震の特集の回があって、たまたまイラストが一つ足りなくて、「イラストも描けたよね」と頼まれたのがイラストの仕事のデビューです。グラグラ揺れる家を描きました。

-興味や実体験がそのまま仕事になっているとは! もしかして就活アドバイザーもそうなのですか。

好奇心が高じるとプロがやっていることが気になって仕方がないんですよね。資格を取るためではなくて、知識を得たいために学びにいくと、使わない資格が増えていくんですよ。心理カウンセラーとか、エステティシャン、他にもシューフィッターの資格などを持っています。
それらは仕事にはしていないので、プロではありませんが、知識はあります。そして外資系で働いていたこともあり、そういう人に就活生の相談に乗ってもらいたい、とお話が進みました。

それと、これもチラシマニアから派生しているんですが、私、求人広告を見るのが異常に好きなんですよ。中学生のころから毎週日曜に求人広告をチェックしています。どの会社は人の入れ替わりが激しいのか、新しい店舗がどこにできるのか、新しい分野をどこに伸ばそうとしているのか、お店ができる前にいち早くそんなことが想像できて面白いんですよね。

-三鷹産業プラザにあるコワーキングスペース「ミタカフェ」では、起業相談のコーディネーターをされています。

はい。対象は主にクリエイターさんですが、自分をどう売っていったらいいかわからないとか、新しい事業をやろうとしているんだけれどこのプランで行けるかどうかとか、そういう相談を受けています。私は火曜日に来ていますが、相談内容によってはもっと詳しい先生のいる曜日をご紹介もします。ここでの相談は無料です。

-じつに多彩な分野のお仕事なので、どうしたら並行して仕事ができるのか、想像がつかないのですが……。

むしろ、一つのことだけをやるほうが、リスクが高いのではないかなと思っています。お客さんが一つだと、そこが倒産してしまったら終わり、というのと同じです。ライターならライター一つでもいいですが、書ける分野を三つぐらい持っておくのは、生き残るためには大事ですよね。ライターだけでなくイラストも、という広げ方でもいいと思います。お客さんとしては、イラストと文章が一緒に発注できて楽ですし、分割して発注するよりコストが落ちるかもしれない。

複数を掛け合わせたら、人と競合しないので強みになります。だからいろいろやっているというのは、楽して競争しないで済む、という面もありますよね。

-たかぎさんには、翻訳と文章とイラストが一括で発注される、ということがあり得るわけですね。

Webで連載したものを、中国の観光客向けにも発信したいから翻訳もして、なんて発注が時々ありますよ。逆に中国語のサイトに、文章とイラストを入れてくださいということも。

-いまの言葉は、とても相談員さんらしくて、勉強になりました。先例がないなどと思わないで、自分のやってきたことや興味のあることを強みとして活かしていくべきですね。

そうですよ~!

コーディネーターを務めるミタカフェでは、ざっくばらんな相談に乗るたかぎさん。

コーディネーターを務めるミタカフェでは、ざっくばらんな相談に乗るたかぎさん。

興味を持ったらとことんまで

2006年を皮切りに、すでに14冊と早いペースで出版されています。しかも住宅、夫婦生活、着物、落語など、こちらも分野が幅広いです。

さっきも言いましたけれど、私は好奇心がすべてのパワーの源で。これをやってみたいと思ったら、まず調べるんです。
例えば着物をやってみたいと思った時は、まず着物について第一人者が書いている本は、図書館にあるものから論文まで一通り読みました。外国人が研究したものも、アジアの伝統衣装を比べたものとか、喪服としての着物を考えたら海外の喪服との比較とか。

いろいろ調べた上で、抜けているものは何なのかを探して、それが自分のやりたいことと合えば企画書を作って持っていくんです。「そんなのやっても面白くないよ」と言われたら、単なる興味で調べただけで終わることもあります。

着物については、けっきょく着るための本(『ワタシでもキレちゃった! 1万円キモノ生活』実業之日本社刊、2009年)になっていますが、初めはもっと幅広い視野で着物を見ていたのですね。

そうですね。着物に興味を持ち出してから、着物ブログをやっていました。京都で着物の染めの型彫り体験をしてきたレポートとか、着物を着て習い事をしたいから、落語を習った話とか。そのコンテンツの中から、着物初心者向けのものを取り出して、あの本になりました。

では逆さから言えば、のちのち本にされるようなことも、ブログに出しているということでしょうか。

出しちゃってます! 真似する人がいたら真似してもらっていいし、真似できるんだったらその程度の企画なんですよ。

着物の時は着物のことばかりに集中していたのですか。

1日中ずっと、Yahoo!オークションを見ていました。何日かやっていると、いいもので新しいものは高い、古くていいものはそこそこ安く売ってることがわかって、お値打ちのものを探すのにはまっちゃって。

着物にはまりながらも、もちろんお仕事はされていたのですよね。

はい、翻訳や他の書き物もやってました。でも着物のことをやりたいから、仕事をなるべく早く片付けるんです(笑)。

ブログや著書にはご自身が登場しています。ご自身を出すのが得意なのですか。

得意というよりも、自分をネタにしています。コミックはオチをつけないといけませんが、他人を傷つけて落とすのは苦手なので。

多岐にわたる分野が、たかぎさんの視点で開陳されてますから、著書を読むほどにたかぎさんに詳しくなってしまいそうです。

自分のことをは一通り書いてしまったかもしれないですね。私の人生、それだけなんです(笑)。

講師としてセミナーにもひっぱりだこ。

講師としてセミナーにもひっぱりだこ。

三鷹住まいの深い理由

-興味に火がついたら調べまくるたかぎさんですから、三鷹に住んでいることにもしっかりとした理由があるのではないでしょうか。三鷹にはいつから住んでいるのですか。

2005年からです。私が30歳、夫が38歳の時に、三鷹に家を建てました。その前は小平市に住んでいました。ずっと賃貸に住むつもりだったのですけれど、賃貸の情報を見るために入った建設・不動産会社で家を建てることを勧められて、自分たちでも建てられることがわかったんです。賃貸と比較した結果、建てるほうが自分たちに合っているのではないかと。これもブログに書いて、本にしましたね。

-三鷹を選んだ理由を教えてください。

理由の第一は、図書館が充実していることです。
当時、私は日本企業で働いていて、いずれはフリーランスとして独立したいと思っていました。そのためには図書館の機能が進んでいるところがよかったんです。三鷹ではその頃すでにオンラインで検索や予約ができましたから。

図書館では調べるだけでなく、興味のアンテナのヒントをもらっています。書店からは得られない。書店では流行っているものや、出版社が欲しがっているものはわかりますが、つまり出版社の思惑の詰まった商業的な場所なので、気持ち悪くなって入れなくなる時もあります(笑)。
その点、図書館は、古いものも、貴重な資料も置いているから、バランスよくアンテナを張るのに最適です。

-なるほど。先ほどの着物でも例に挙げていた通り、独立されてから図書館をよく活用されてますね。

はい。実は当時、私の職場と夫の職場の間が三鷹だったという理由もあったのですが、ローンを組んだ後に、頭にすっごく大きな円形脱毛ができてしまったんです。社内の人間関係のせいで。すでに兼業でライターや翻訳業をやっていたので、副収入もあることだし、会社を辞めればと夫が言ってくれて、独立しました。こんなに早くとは思ってなかったんですけれどね。

-では、今の働き方は、三鷹でスタートしたのですね。

そうです。三鷹はSOHO支援が手厚いというのも理由の一つです。事務所は自宅なのですけれど、自宅で仕事が進まない時や、周りで工事をしている時には、ミタカフェに来ています。こういう場所が近くにあるのは、ありがたいですね。しかも利用しやすい価格で。

他にも三鷹に魅力を感じた点はありますか。

うちは子どもがいないので、将来は土地を売って、老人ホームに入る時の資金などにできるようにと考えました。そのためには価値が目減りしないところがいいだろうと。キー駅で、駅から徒歩10分以内で、地盤がしっかりしている土地を探しました。三鷹は総武線も東西線も乗り入れていて、始発駅で、徒歩7分の小さな土地がたまたま売りに出ていたんです。17坪しかないんですけれどね。そこになんとか三階建を建てました。
あと当時の行政サービスの順位で、三鷹はすごく高かったんです。だから老人になっても安心だろうね、と。

講師としてセミナーにもひっぱりだこ。

講師としてセミナーにもひっぱりだこ。

40歳を過ぎて、残りの人生のために

-八面六臂のご活躍のたかぎさんですが、じつは最近、新しい肩書きが増えたと聞きました。

そうなんです。去年の9月に今さらながら大学院生になりまして。今は学生生活が中心です。

-なぜ大学院に行こうと思ったのですか。

40歳になった時に、ちょっと傲慢に聞こえるかもしれないのですが、10年間、1年に1冊以上出版してきて、自分の中にストックがなくなってしまって、乾いた状態になったと感じました。まだ人生の後半があるのに、どうしようって。後半40年のために、全然お金にならないことでも、ただただ興味のあることをやってみようと思い、大学院に入りました。今は自分にとってはご褒美タイムなんです。

-大学院で学ぶことがご褒美なのですね。どんなことを研究しているのですか。

文化人類学として、インドネシアの少数民族のトラジャ族について研究しています。トラジャ族はお葬式が面白いんです。亡くなった人と3年ぐらい、家の中で一緒に過ごすんです。もちろん防腐処理をしているのですけれど。「死んだ人」ではなくて、「熱い人」という表現をするのですが、まだ村の中をうろうろしている状態なんですね。家族として一緒に暮らし、毎日ご飯をあげて、話しかけます。そして3年経ったら、派手なお葬式をするんです。彼らの人生のピークは、生まれた時でも結婚でも出産でもなく、お葬式なんです。家族にとっても自分にとっても祝うべき時だから、千人単位で人が集まり、歌い踊り、何日もかけて、盛大に行います。そうやって悲しみを、人とつながりながら癒すんです。

-日本で考えられている死や葬儀とはまるで違いますね。どうしてトラジャ族を研究したいと考えたのですか。

『ナショナルジオグラフィック』の編集部の方と知り合いで、打ち合わせに行った時にバックナンバーを見せてもらって、そこでトラジャを知りました。うわーっと衝撃と興奮を覚えました。それからトラジャの友達を作って、去年の7月、大学院に入学する前に、その子の実家に行ってきたんです。それが事前調査になり、これは研究になりそうだなという手応えがありました。

というのも私は10年前に、父を亡くしています。闘病中はずっと大学病院に入院していたのですが、本人が最期はホスピスで過ごしたいと言っていたことを尊重し、なんとか最後の最後にホスピスに移せたんです。でもその日のうちに父は亡くなってしまいました。
だから、自分の中で未消化の部分が多くて、それからホスピスボランティアをしていました。死生学講座というものにも6年通いました。死、特に肉親の死について、自分が感じていることは、日本人だからなのか、肉親だからなのか、もっと客観的に考えたいと思うようになりました。

どうしてこんなに片付かない気持ちが続くのだろうと思った時に、遺族の悲しみを癒すグリーフケアという言葉がありますけれど、文化人類学的にグリーフケアを考えてみたくなったんです。

-10年前といえば、ちょうど独立されたころですね。

はい。父を題材に、ラフまで書いた漫画があるんです。編集さんともやり取りをして、もう少しここを落とし込んだら原稿にしましょうという段階になっているのに、やっぱり書けないのは、そこに何か引っ掛かりがあるからだろうと。自分の創作がそこで止まってしまっているんですね。

-ご自分で企画する創作ができなくなっているということですか。

そうです。「父」や「死」以外のことを考えても、あまり面白いと思えなくなってしまって。まずはこの山を越えて、そうすればまた見えてくる山があるのかなぁと思いながらやってます。

父はすごく本を読む人で、新しいことも歴史も、哲学も大好きでした。私が文化人類学を学んでいる時間は、自分を通して父も学んでいる気がするんです。10年経って、やっと、父の存在を感じました。ホスピスボランティアも、死生学講座も、この10年間も必要だったのだろうけれど、本当に最近やっと父がここ(胸)にいる、一緒に在る感じがしてきました。

-お父さまの死を、お父さまの存在を感じながら学ぶ。たかぎさんだけのグリーフケアのように思います。

大学院にいると、「その後、仕事はどうするんですか?」「仕事にどう活かすんですか?」とか言われるんですけれど、もっと根源的なものと今は思っています。自分なりの答えが見つかれば、今後40年生きていく支えになると思うので。

通っている大学院の研究室。ここで文化人類学を学んでいる。

-トラジャ族のことは研究論文として発表することを目指していらっしゃると思うのですが、論文に入らないこぼれ話もありそうです。

うーん。まだ全然考えてないですけれど、エッセイになる日がくるかもしれませんね(笑)。
さっき話したトラジャの友達ですけれど、彼女が日本に遊びに来た時は大爆笑でした。「こっちは寒いから目一杯の防寒着を持ってきてね」と言ったのに、ものすごく薄着で。思わずダウンジャケットをあげましたからね!

-それなんですけれど……トラジャの研究がしたいからといって、すぐにトラジャの友達ができるのが不思議です。

ネットです! ランゲージエクスチェンジのサイトでナンパして、つながりを作るんです。日本語を勉強したい人で、トラジャの人という条件を出して、何人か返事があった中で彼女が一番理解がありそうだったので、それ以来、交流しています。

-たかぎさんはインターネットでぐんと視野も行動も広げているのですね。

いまはマダガスカルの人を募集しているんですよ。マダガスカルに最初に入植した20人ぐらいはインドネシア人だと言われています。インドネシアのどこの人かはわからないのですけれど、葬送儀礼がトラジャと似ているんです。だからトラジャかもしれないという仮説を立てていて、マダガスカルにもツテが欲しいなぁと(笑)。面白いでしょ?

-面白いです。トラジャについては、話が止まりませんね。ぜひたかぎさんに解明していただきたいです。それにしても、たかぎさんの好奇心もバイタリティーも、「まずは検索」なんですね。

ほんと、ネット様様です!

愛猫と一緒に

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この記事を書いた人
小田原 澪 (てんびん座)ライター

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