丁寧な仕事が信頼の輪を広げていく。社会とつながる自慢のクッキー。

新納 麗子さん

精神障がい者の働く場所を、三鷹市で3ヶ所運営する社会福祉法人むうぷ。新納麗子さんは、むうぷ舎新川の施設長兼法人の理事を務めています。むうぷが製造する太宰治をモチーフにしたクッキーは、三鷹のお土産の代表格。新納さんが音頭をとって生まれた太宰クッキーには、“むうぷらしさ”が散りばめられていました。

新納 麗子さん(かに座)
社会福祉法人むうぷ理事/むうぷ舎新川施設長 精神科病院でソーシャルワーカーとして働いた後、精神障がい者の共同作業所むうぷに関わり、社会福祉法人格の取得に奔走。むうぷの3つの事業所のうち、むうぷ舎中原の施設長を経て、現職。

障がいのある人が笑顔で働くことをサポート

-まず、新納さんが働いていらっしゃる「社会福祉法人むうぷ」についてお聞かせください。

障害者総合支援法に基づく障害福祉サービスで、精神障がいのある方をサポートしています。三鷹市内に3ヶ所の施設を運営しています。クッキー作りとダイレクトメール封入作業を行う「むうぷ舎中原」、リサイクルショップとダイレクトメール封入作業を行う「むうぷ舎新川」、自然食レストランの「食茶房むうぷ」です。3ヶ所とも、就労継続支援事業B型です。そのほかに、計画相談を担当する「めだか相談室」もあります。

むうぷでは利用される方をメンバーさんと呼んでいます。一緒に仕事をしながら支え合っている仲間です。

-幅広い職種を取り揃えていて、多角経営ですね。就労継続支援B型とは、どういうものなのですか。

福祉の枠組みで仕事をしたい方のためのサービスです。仕事をして、収入を得る場所なのですが、雇用契約を結ぶのではなく、施設で売り上げた収入を、メンバーさんみんなに「工賃」として分配します。

新しく入った人も、ベテランの人も同じ時給で平等です。休まずに通えた人には皆勤手当も出ます。

-頑張った人には、うれしい手当てですね。

そうですね。

売上から経費や消費税を払い、大きな機械を買う時に備えて積み立てもしています。天災などで仕事ができなくなる事態に備えて、工賃の積み立てもしています。一つの通帳で管理していて、それを毎月、メンバーさんに報告しています。

-一般の企業では、そこまで細かな数字を、従業員に報告しないかもしれません。

自分たちが稼いだお金が通帳に入り、そこから工賃が支払われる。職員からお金をもらうわけではなく、自分たちが稼いだものが還元される、という流れを報告しています。透明性が高いとやりがいになりますし、職員との信頼関係にもつながります。

メンバーさんへの細やかな報告は、むうぷが独自に始めましたが、今は研修会などでもこういう風にやってくださいと指導されますから、先んじてやっていたのだなと思います。

一般の会社と大きく違うもう一つの点が、メンバーさん一人ひとりに個別支援計画を立てて、希望に応えているところです。体調によって週3日通いたいという希望なら、その希望を組み入れて曜日を決めて仕事に入ってもらいます。

-「B型」ということは、「A型」もあるのですか?

A型は雇用契約を結んで、サポートを受けながら仕事をする場所です。元気になってきて、長時間、働けるようになった方に向いています。A型の事業所は工賃の支払額が大きいですから、その分、大口の仕事を引き受けています。三鷹市内にはA型の事業所もあります。むうぷは退院したばかりの方も体調に合わせて無理なく働けるようにB型を運営しています。

障がい福祉サービスと言っても、あまり知られていませんよね。精神科の入院治療が長期間になってしまうことが多く課題になっています。地域にサポート体制があれば、退院できる方が全国で7万人ほどいると言われています。退院できる人は退院して地域で安心して生活できるようにサポートしましょう、という大きな流れがあります。

クッキー作りとダイレクトメール事業を行うむうぷ舎中原

クッキー作りとダイレクトメール事業を行うむうぷ舎中原

-むうぷは昨年2018年に、設立から30年を迎えました。どのような経緯で発足したのでしょうか。

30年ほど前は、精神科病院を退院しても日中に行く場所がない、睡眠が不安定でまだ仕事につくことができない、そういう方の日中の居場所が必要だと、病院のソーシャルワーカーや家族の方々が中心となって、共同作業所が作られるようになった頃です。

むうぷは、意外なきっかけで立ち上がりました。三鷹の有志の方々が、ボランティアで電話相談を始めたんです。そこに寄せられた相談で多かったのが、精神科に通院している方からのものでした。日中行く場所がないとか、誰かに相談したくても2週間に1回の外来で主治医の診察を受ける時だけだとか。

-いろいろな相談が寄せられる中で、精神障がいについての相談が多かったのですね。

そうなんです。三鷹や近隣には、精神科の病院が多いのです。電話相談の有志には、三鷹市役所の生活福祉課でケースワーカーをしていた方もいらして、共同作業所がないなら作ろうという話になって、むうぷが始まったそうです。

-三鷹らしい始まり方、と言えるかもしれないですね。

こういう発足の仕方は珍しいようです。

リサイクルショップとダイレクトメール事業を行うむうぷ舎新川

リサイクルショップとダイレクトメール事業を行うむうぷ舎新川

-新納さんのむうぷとの関わりは、どのように始まったのですか。

私は新卒の時、三鷹市にある精神科の長谷川病院に、ソーシャルワーカーとして就職しました。入院されていたご本人やご家族の相談を受ける仕事だったのですが、体調が良くなってこられたり、退院されたりしたら喜ばれるし、サポートをする人がいることでご家族が安心されるし、やりがいのある仕事でした。

5年半働き、結婚・出産で一旦病院勤務を辞めました。子育てをしながら、そろそろ仕事に復帰しない?と病院の時の先輩が声を掛けてくれたんです。たまたま病院の記念式典に行ったときにむうぷの代表者に会い、むうぷの職員で辞める人がいるから、来てもらえないかと。それでむうぷの見学に行ったのが始まりです。

その時にメンバーさんが、すごく積極的に話しかけてくれたんです。病院で患者さんとして会っていた人が、むうぷでは笑顔で、毎日楽しく暮らしていると嬉しそうに話してくれて、むうぷってなんかすごいところだなと思いました。

そこで、まだ子どもが小さかったので、仕事はできないけれど、ボランティアならと申し出ました。20年ぐらい前です。

-初めはボランティアだったのですね。

はい、ボランティアで運営委員をお願いされました。今でいう理事です。

運営について話し合う月1回の会議に出たり、運営費が足りなかったので、100人位のボランティアさんと一緒にバザーを開いたり。そうした後方支援や、広報誌の「むうぷ舎だより」の編集などを手伝っていました。

そのころは共同作業所だったのですが、社会福祉法人格を取りたいね、という話題がときどき出るようになっていました。法人になる少し前に採用試験を受けて職員になり、「むうぷ舎新川」の施設長になりました。

-共同作業所と社会福祉法人ではどのような違いがあるのですか。

共同作業所は、一年毎に東京都に申請する事業という位置づけです。社会福祉法人は資本金を持って、法人として社会的にも認められた存在になるので安定して運営できます。

-新納さんをはじめ、職員のみなさんは、どのような仕事をしているのですか。

メンバーさんと一緒に仕事をしています。リサイクルショップにも立ちますし、ダイレクトメール事業の責任者、製菓事業の責任者でもあります。メンバーさんの日々の相談も受けています。私もですが、職員は精神保健福祉士という国家資格を持っている人が多いんです。精神科病院でのケース会議や、三鷹市内の福祉関係の会議にも参加してつながりを作っています。

-20年前に、むうぷってなんかすごいところだなと思った、とおっしゃっていましたが、むうぷの中で働くようになって、すごさがわかりましたか?

ボトムアップ的な考え方なんです。上の立場の人から「こういう風にしましょう」と言われて動くのではなくて、メンバーさんや職員の意見を聞いて、一緒に考えることを大切にしている組織だと思います。意見を聞いてもらえる安心感があると思います。

杏林大学病院の向かいにある、自然食レストランの食茶房むうぷ

杏林大学病院の向かいにある、自然食レストランの食茶房むうぷ

三鷹のお土産「太宰クッキー」誕生秘話

-むうぷといえば「太宰ロゴ入りクッキー」「太宰ロゴ入りケーキ」が有名です。製造元の「むうぷ舎中原」の施設長を新納さんが務めていた時代に誕生したのですよね。

むうぷは、レストランやリサイクルショップのお客さま、リサイクルショップに品物を提供してくださる方々、クッキーをお買い上げくださるお客さまなど、地域のたくさんの方々に支えられています。三鷹のお土産を作り、三鷹のすばらしさをアピールして、そういうことで少しでも地域にご恩返しできたら、という思いをずっと温めていました。

そんな時に、三鷹市が太宰治の生誕100年を記念して、太宰治の横顔のロゴを作りました。このロゴで自主製品を作りませんか、という呼びかけが市報に載りました。三鷹市地域ブランド創出事業です。2009年でした。

-市報を読んで、これだ!とひらめいたのですね。

はい。むうぷにはクッキーやケーキはすでに商品としてありました。まだ売上は月1〜2万円ぐらいだったのですが、商品には自信がありました。私の子どもたちに食べさせると、「おいしい!また買ってきて!」って言うんです。お友達にプレゼントしても、「おいしいね」って言ってもらっていました。

お中元やお歳暮の時期に知り合いにチラシを配ると、みなさん大量に注文してくださるんです。贈り物に使うということは、おいしいからかなって。ご自分が食べる分だとしたら、同情票かもしれませんが、プレゼントにするということは、同情票じゃないと思うんです(笑)。

-とても謙遜されますね(笑)。むうぷのお菓子は優しいおいしさですよね。

余計なものを入れていないんです。どこかのキャッチコピーみたいですけれど。お母さんが作るようなお菓子だと思います、甘すぎないですし。…材料は良質なものにこだわっています。

ギフトものに選んでもらえている!と思っていたところに市報を見たんです。職員からもやりましょう!という声が出ました。

黒いパッケージがシックなギフトボックス入りの太宰ロゴ入りクッキー

黒いパッケージがシックなギフトボックス入りの太宰ロゴ入りクッキー

-太宰クッキーには桜桃(チェリー)、ココア、紅茶の3種類があります。

太宰治に詳しい職員がいて、彼が「じゃあ、桜桃味だね」って言ったんです。それで調べてみて、桜桃忌(太宰の忌日。遺体が発見された6月19日)を知りました。

桜桃とはさくらんぼのことですが、さくらんぼって時期が限られているし、水っぽくてクッキーには向きません。そこでドライチェリーを使うことにしたのですが、味気ないんですよ。それで悩んでいたら、調理担当のスタッフが、「新納さん、たしかね、さくらんぼのお酒があったわよ」と教えてくれました。あちこち探して、ようやくクイーンズ伊勢丹で見つけました。キルシュヴァッサーというんですけど、それを入れたらおいしくなりました!

紅茶とココアは、それまでに作っていたクッキーのラインナップから選びました。大量注文がくるかもしれないと思ったので、大量注文と長期保存に耐えられる材料で、評判の良いものにしました。紅茶クッキーは、アールグレーの製菓用茶葉を入れて、香りが良くなりました。

-ケーキも桜桃は外せませんね。ほかにコーヒーと抹茶甘納豆があります。

もともとクランベリーのカップケーキがとても評判でした。ホワイトチョコも入れるとおいしいと、お菓子の先生から教えてもらって作ったもので、それを参考に桜桃もホワイトチョコ入りです。

コーヒー味はもともと作っていたのですが、太宰ケーキのコーヒー味にはTAKA-1(三鷹のおみやげ認定商品)に選ばれている、珈琲松井商店さんのDazai COFFEEを使っています。Dazai COFFEEにして断然おいしくなりました。

-定番商品のクッキーやケーキをベースに太宰という付加価値をつけたことで、何か変化がありましたか。

記念式典のお土産など、大口で使ってくださることが増えました。みたか都市観光協会や太宰治文学サロンで扱ってくださったり、そこから紹介していただいたり。私たちは広報活動が苦手なのですけれど、たくさんの方が広報に協力してくださるのでありがたいです。

-TAKA-1に選ばれていますね。

TAKA-1の制度が始まる時に、むうぷの税理士さんが教えてくれて、応募しました。

三鷹駅のNewDaysで販売してくださっているのは、TAKA-1の商品だからです。そこから広がって、駅中のクイーンズ・アイも置いてくださって。系列のクイーンズ伊勢丹3店舗にも置いていただいてます。三鷹市外からも扱いたい、というお話をいただくようになりました。

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太宰クッキーや太宰ケーキの話題になると、一層話に熱のこもる新納さん

太宰クッキーがつながりを広げる

-太宰クッキーをきっかけに、三鷹の街の見え方や関わり方は変わりましたか。

太宰クッキーを作るにあたって、三鷹を歩いてみたんです。太宰治文学サロンにボランティアさんがいらして、展示内容だけでなく、外に出てゆかりのある場所を案内してくれたんです。熱心で温かいなぁ、親切だなぁって思いました。

また、朗読家の原きよさんに来ていただいて、食茶房むうぷで太宰治作品の朗読会を毎年、開きました。メンバーさんも職員も聞けますしお客さまも呼べますから。
2~3年前からは三鷹市芸術文化センターで原きよさんが太宰治の朗読会を開いているので、今はそちらを応援する形で関っています。

そうそう、三鷹商工会の実践経営塾にも通いました。

-一般の市場に売っていくにはどうしたらいいかと考えたからですか。

そうです。病院勤務や福祉のことしか経験がなかったので、価格設定をどうしたらいいか、原材料費と経費をどう考えたらいいか、同じグループになった人からたくさん教えてもらいました。同じグループにデザイナーの荒井良隆さん(株式会社フランフル)がいらして、後に商品のリーフレットを作っていただきました。

-経営塾で学んで、どのような販売戦略を立てたのですか。

ホームページなどで広く売るのではなくて、とにかく三鷹で、三鷹の人に「ああ、太宰クッキー知ってるよ。おいしいよね」と言っていただけるようになろうと考えました。三鷹の人に末永く愛されて、食べ継がれるクッキーを目指そうと。

頑張って宣伝するのではなくて、本当に間違いのないものを作ろう。おいしいと思ってもらって、それが信頼になって、また買ってもらえるようになろう。商品を通して信頼を作っていこうと思いました。

-商品の質に対して、お値段がひかえめなのは、宣伝費が少ないためでもあるのですね。

はい、専用の手提げ袋なども作っていませんから…(笑)

でも、パッケージにはこだわりました。箱のデザインは三鷹の印刷屋の株式会社文伸さんにお願いしました。こういう風にしたい!という思いを伝えた時に、お話を聞いてくださった川井信良さんが「やりましょう!」とニコッとされて。協力していただけることになり心強いなあと感じました。おかげさまで、箱のデザインがシックで高級感があると評判がいいんです。

-新納さんが考えた販売戦略に沿って、太宰クッキーと太宰ケーキの売り上げが伸びてきているようにお見受けします。

商品が棚に並んだ時に、有名なお菓子屋さんが作ったお菓子も、福祉施設のお菓子も、同じように並びますよね。そのレベルまでいかないと、棚に並べてはいけないと気を引き締めています。自分たちができる限界まで自信を持てるものを出していかないと、選んでいただけないと思うんです。

実践経営塾に行って、企業も、福祉施設も、社会に貢献しようという意気込みは変わらないんだと思うようになりました。そして商業も福祉も身近にあって、理解しあっている社会の姿は望ましいなと思いました。いろいろな人がつながって、より一層過ごしやすい社会になっていったらいいなと思います。

-太宰を通じて、地域とのつながりがより深まったのですね。

昨日、むうぷに7年通ったメンバーさんで、一般企業に就職した人が、現状の報告にむうぷに来ました。やりがいがあって、職場の人に一緒に夕食を食べようと誘われることもあって楽しいんですって。たまに睡眠が不安定になることもあるけれど、仕事には休まず行けていると。でも、むうぷを卒業したから、さみしいと思うこともあるんですって。

仕事を通して、自己評価が上がっていく、自信を持っていく、そういう姿を見られるのは、とてもやりがいがあります。

わたしがいろんなところに出かけていって、流れを作ることで、メンバーさんも世界が広がっていくのではないかなと考えています。緩やかにつながっていくのがいいし、仕事を通じてつながれば、お互いに信頼し合えるし、お互いに尊重し合えるつながりになるのではないかなと思っています。

優しいおいしさが好評の太宰ロゴ入りケーキ

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この記事を書いた人
小田原 澪 (てんびん座)ライター

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